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京都地方裁判所 昭和44年(ソ)1号 決定 1969年8月02日

抗告人

孫時英

代理人

山口貞夫

中島晃

相手方

西村政和

西村キミ

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

二京都簡易裁判所は、昭和四四年六月一九日、相手方等の申請に基づき、抗告人を被申請人として、別紙仮処分決定主文記載の仮処分決定をなし(昭和四四年(ト)第五五号)、次いで、相手方等が委任した京都地方裁判所執行官は、昭和四四年六月二一日、右仮処分決定正本に基づいて、右仮処分決定の目的物件(本件建物)につき、その執行に着手し、同日これを終了した。

抗告人は、昭和四四年六月二七日、右仮処分決定に対し、異議の申立をなすと共に、右仮処分決定の執行取消を求めたところ、京都簡易裁判所は、同年七月二日、右執行取消の申立を棄却する旨の決定をなした(昭和四四年(サ)第五八七号)。

三仮処分決定に対し異議申立又は仮処分判決に対し上訴の提起があつた場合、(1)仮処分決定又は仮処分判決の取消又は変更の原因があるとき、若しくは、(2)仮処分の執行により債務者に回復しえない損害発生の危険があるときにかぎり、その執行の停止又は取消を求めうる、と解するのが相当である。この見解は、最高裁判所昭和二五年九月二五日大法廷決定(民集四巻九号三五頁)の見解を一部修正している。その理由は次のとおりである。

右大法廷決定は、「各場合において具体的になされた仮処分の内容が、権利保全の範囲にとどまらずその終局的満足を得せしめ、若しくはその執行により債務者に対し回復することのできない損害を生ぜしめる虞のあるようなものであるならば、その執行は実質上終局的執行のなされた場合と何等えらぶところはないのであるから、この場合においてのみ、例外として民訴五一二条を準用する必要あるものといわざるを得ない。」と説示している。しかし、仮処分の内容が権利の終局的満足を得せしめる場合、常に、仮処分の執行の停出又は取消の要件を充足すると解するのは、「緊急事態に対してなされる緊急措置たる効果を阻害されるに至り仮処分制度による特別保護の目的を滅却することとなる」(右大法廷決定)であろう。又右大法廷決定は、「仮処分の裁判はそれが判決でなされたときにおいても、係争物に関するもの(同法七五五条)たると仮の地位を定めるもの(同七六〇条)たるを問わず、要するに将来本案訴訟において確定せらるべき請求につきその固有給付を保全するに必要な緊急措置を講ずるものたるに過ぎない。從つてかかる仮処分判決が執行されるとしても、そこに実現されるものは、本案判決に基ずく強制執行が権利の終局的満足を招来すると異なり、原則として権利保全に必要な仮の措置たる範囲を出でない筈なのである。されば仮処分判決に対し、たとい上訴の申立があり、将来その判決の取消又は変更される可能性が予見される場合であつても、予めその執行を停止する等の一時的応急の措置を講ずる必要は存在しないのである。」と説示する。しかし、仮処分の内容が権利の終局的満足を得せしめるものでなくても、仮処分決定又は仮処分判決の取消又は変更の原因があるとき、仮処分の執行の停止又は取消の必要性のある場合の存在を否定しえない。従つて、一般に(仮処分の内容が終局的満足を得せしめるものであると否とを問わず)、(1)仮処分決定又は仮処分判決の取消又は変更の原因があるとき、若しくは、仮処分の執行により債務者に回復しえない損害発生の危険があるとき、のいずれかの場合にかぎり、仮処分の執行の停止又は取消を求めうると解するのが相当である。

四これを本件についてみるに、相手方等は、その所有に係る本件建物を、抗告人に賃貸していたところ、抗告人において、本件建物につき、無断とりこわし等の工事をなしつつあつたため、抗告人に対し、賃貸借契約解除の意思表示をなしたとして、抗告人に対する本件建物の引渡請求権を保全するため、原裁判所に仮処分申請をし、原裁判所は、これを容れて、前記趣旨の仮処分決定をなしたものであるところ、(1)本件全疎明資料によるも、本件仮処分決定の取消又は変更の原因となるべき事実を認めえないし、(2)本件仮処分の執行により債務者に回復しえない損害発生の危険がある事実を認めうる疎明資料もない。本件建物がその屋根瓦をはがした状態にあり、本件仮処分が、本件建物の屋根を原状にもどす工事をも禁止する趣旨のものであれば、右禁止部分に関する限り、仮処分執行停止の上記(1)の要件を充足するのみならず、(2)の要件をも充足する。しかし、本件建物がその屋根瓦をはがした状態にある事実を認めうる疎明資料がないのみならず、仮に本件建物がその屋根瓦をはがした状態にあるとしても、本件仮処分第二項(執行官は現状を変更しないことを条件として右物件を被申請人に使用させることができる)および第五項(被申請人は別紙目録記載の建物につき、損害もしくは増築等の工事をしてはならない)は、本件建物の屋根を原状にもどす工事をも禁止する趣旨でないと解釈するのが相当である。

従つて、抗告人は、本件仮処分決定の執行の停止又は取消を求めえない。

五よつて、本件仮処分決定の執行の取消を求める抗告人の申立を、理由がないとして棄却した原決定は、結局相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。(小西勝 山本博文 寒竹剛)

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